撃ち落とされたエイズの巨星
HIV/AIDS撲滅をめざしたユップ・ランゲ博士の闘い2014年7月17日、マレーシア航空MH17便が撃墜されたあの事件を覚えていますか?
一発のミサイルが奪った「医学の巨星」。コロナの時代に読みたい、知られざるノンフィクション
7月17日は、HIV/AIDS撲滅に生涯を捧げ、道半ばでこの世を去ったユップ・ランゲ医師(享年59歳)の命日です。
いま世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。もしコロナの時代に彼が生きていたら――。
2014年7月17日に起きたマレーシア航空MH17便撃墜事件により急逝したユップ・ランゲ医師の生涯を綴ったノンフィクション『撃ち落とされたエイズの巨星 〜HIV/AIDS撲滅をめざしたユップ・ランゲ博士の闘い』。
本書のテーマはHIV/AIDS撲滅ですが、新型コロナウィルス の“いま”読むと,私たちを取り巻く現在の状況と重なり、これまでとは異なる読後感が残ります。
「エイズの巨星」が果敢に挑んだ世界と“いま”を、本書を通して見つめませんか。
「アフリカのどんなへんぴな地域にも冷えたコカ・コーラやビールを届けることができるなら、薬を届けることも不可能ではないはずだ」
未知の病状への対処、同性愛者への偏見、活動家の暗躍、アフリカの貧困。本書では、エイズという病気そのものだけでなく、その周辺で山積みの課題に苦悶し、それでも行動し続けたユップ・ランゲ博士の突然絶たれた生涯を追います。
ユップはHIV対策の最前線で何を診て、何を考え、どんな行動をしてきたのか。日本ではいまだ知られざる生涯を、ユップによって医学の道に導かれた弟子が、入念な取材と生き生きとした筆致で描きます。
ユップ・ランゲ医師について
ユップ・ランゲ(Joseph Marie Albert Lange) [1954.9.25-2014.7.17]
オランダの医師、HIV研究者。蔓延の最初期からエイズ治療・対策にとりくむ。ファームアクセス財団の初代理事長、国際エイズ学会会長、AIGHDの科学責任者を歴任。
オランダのみならずアフリカ、アジアにて活躍し、特に母子感染予防の貢献は特筆される。
2014年7月17日、かつて会長を務めた国際エイズ学会に向かうため搭乗していたマレーシア航空17便がウクライナ上空で撃墜され、帰らぬ人となった。
試し読み
●「序文」
2014年夏のマレーシア航空MH17便撃墜の悲劇は、298名の男性、女性、子どもたちの命を奪い、遺族ははかり知れない喪失感に包まれました。また、世界のエイズ関係者も大きな衝撃を受けました。HIV/エイズと闘ってきた6名が、オーストラリアのメルボルンで開催される国際エイズ会議に向かう途中に命を奪われたからです。そのなかに、私の友人でもあり、エイズとの闘いにその一生を捧げたユップ・ランゲ博士と、パートナーのジャクリン・ファン・トンヘレンが含まれていました。・・・
●「この本が生まれたいきさつ」
ユップ・ランゲと初めて会ったのは、私が17歳で理想に燃えていたときだった。彼は背が高く、見るからに立派な人という感じだった。ロンドンのある会議場で、ノートを手に演台から離れ、白髪まじりの短い髪をさっとなでた彼は、ちょうどHIVについての講演を終えたところだった。ユップが所属する国際エイズ学会でコンサルタントとして働いていた母は、彼のいるほうに私をそっと押し出しながら言った。「ほら、行きなさい。今なら話ができるわよ」ただ、私は話をしてもらえるかどうか不安だった。・・・
読者レビュー
“covid-19に見舞われている現在、ユップがいてくれたらと思わずにいられない。。”
“本書の知ることが終わりの始まりになるという一文が印象的です。きっかけを作り出していきたい。”
“ハイネケンが、アフリカのエイズ対策に貢献していたことは驚きでした。”
著者プロフィール
シーマ・ヤスミン(Seema Yasmin)
イギリス生まれの女性医師、ジャーナリスト。生化学をクイーン・メアリー大学で、医学をケンブリッジ大学で学び、ロンドンのホーマートン大学病院にてドクターとして勤める。2011年からは米国疾病管理予防センター(CDC)に通称「病気の探偵」として勤務。その後トロント大学でジャーナリズムを学び、『ダラス・モーニング・ニュース』の記者となる。疫学をテキサス大学ダラス校で教えたり、スタンフォード大学のJohn S. Knightジャーナリズムフェローシップに選ばれ、その後同大学で教鞭をとるなど活躍の範囲は広い。新型コロナに関しても、スタンフォード大学スタンフォード・ヘルスコミュニケーション・イニシアチヴ所長の立場から科学的な情報を発信。17歳のとき(本人曰くダメ学生のとき)に、ユップに出会い、そのアドバイスに導かれて医学の道に進んだ。
内容紹介・目次
HIVを地上から一掃したいーーMH17便撃墜事件で急逝したIAS元会長ユップ・ランゲ博士。死に至る病をコントロール可能な慢性疾患に変えた人類の叡智と、社会実装上の困難を、医師ユップの生涯とともに描く。
- 序文ーメイベル・ファン・オラニエ妃
- この本が生まれたいきさつ
- 第一章 終焉
- 第二章 ことのはじまり
- 第三章 謎の感染症
- 第四章 敵を知れ
- 第五章 異色の官僚
- 第六章 さまざまな臨床試験
- 第七章 エイズ否認論の出現
- 第八章 エイズ活動家たち
- 第九章 お金と信念
- 第一〇章 治癒にむけて
- エピローグ
- 謝辞
詳細情報
定価 | 本体 2,000円+税 |
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判型 | 四六判 |
ページ数 | 271ページ |
ISBN | 978-4-7581-1210-9 |