ワクチン・レース

ウイルス感染症と戦った,科学者,政治家,そして犠牲者たち

メレディス・ワッドマン/著,佐藤由樹子/翻訳
解説:岩田健太郎(神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授)

ワクチン・レース
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2020年10月22日発行

ヒトはウイルスを制圧できるのか、開発はライバルより先か

予想される大流行は目前に迫っている。切り札は間に合うのか。
60年代米国の風疹を巡る真実を関係者の証言から描く。知られざる人々に光を当てる、ヒトvs感染症の成功譚。

“あるもの”で作られたいくつものワクチンが、世界中で何億という人々を病から守ってきた。
その多くは就学前の子どもたちだ。
人類に大きく貢献しているワクチン。その開発を可能にした科学の大躍進とひと癖もふた癖もある登場人物を、丹念に取材した医科学ノンフィクション。
ウイルス感染症の成功譚として、全世界が答えのないCOVID19制圧に立ち向かう今だからこそ、必読。

「米国医学研究の「光」の部分のみならず、
「影」の部分も克明に記録している。」
解説:岩田健太郎

本書は米国医学研究の「光」の部分──非常に優秀な研究者のトップレベルの開発の歴史──のみならず、「影」の部分──利権がらみのワクチン開発や研究競争の中でのパワハラ、いじめ、足の引っ張り合いという側面──も克明に記録している。正しい、しかし不都合な真実を告発すると迫害される。不備のある感染防御を告発してクルーズ船から追い出されたぼくには、痛いほどよく理解できる事実だ。そして、こういうことは日本独自の「病理」ではない。──岩田健太郎(神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授)<本書解説より一部抜粋>
こちらで全文読めます!(noteへ移動します)

「ワクチン、それは人類の叡智。されど、かくも得がたきもの。」
仲野徹

風疹、ポリオ、狂犬病…。恐ろしいウイルス疾患に対するワクチンはいかにして生み出されてきたのか。興奮、絶望、協力、競争、愛着、憎悪、自尊心、責任感、名誉欲、さらには倫理や政治、そして金銭。さまざまなものが渦巻く中、困難を乗り越えて研究が進められていく。主人公は、細胞分裂回数のヘイフリック限界に名を残すレオナード・ヘイフリック。その毀誉褒貶にまみれた人生とワクチン開発の長き物語が見事に描き出される。──仲野徹(大阪大学医学部教授)

「ワクチン開発の歴史にワクワク、ハラハラドキドキ。」
病理医・ヤンデル

「検査してお薬出しておだいじに」の医療が机上の空論であることを、医師は日常診療で痛感する。医学者は複雑系の制御を目論むドン・キホーテだ。ポリオワクチン開発秘話、狂犬病の猛威と人体実験、科学者・政府・企業・市民それぞれの正義。「風疹は西半球からは撲滅された」の一文を、私たちは皮肉と受け取るべきかもしれない。一筋縄ではいかない「疫」との戦記、狂言回しは非癌細胞系のイザナギことヘイフリックである。──病理医ヤンデル

読者レビュー

「コロナ19の世界を生きる私たちにとって大きな教訓にもなるのではないかとも思う。」

今、コロナ19のワクチン開発について、各国がしのぎを削っている。そんなに急いで副作用の心配はないのだろうかと私はちょっと心配になる。でもこの本を読んで、私が考える副作用と言う言葉がいかに薄っぺらな認識であるのかを痛切に感じさせられた。細菌を培養する培地を選び成育させること、ウィルスを感染させない領域まで弱めること、小さな生物から人間に至るまでの治験ーワクチンが実用化されるまでの長い長い過程が多くの研究者たちの検証の歩みとともに綴られ、それらがいかに困難であるのか(あったのか)を私たちに伝えてくれる。

子どものころ、ワクチン接種の始まりはジェンナーが自分の息子に接種したのが始まりだと本で読んだのを覚えている。しかし現実に治験の対象となってきたのは、「ボランティア」と呼ばれる知的障碍者や家庭的事情のある病院や施設に入居する人々であったことがわかっている。自分の家族を犠牲にしたという研究者の美談は嘘とは言えないまでも不十分な説明にしか過ぎない。
更に一番の驚きは、世界に大きな役割を果たしたポリオ、風疹と言ったワクチンの培地のほとんどがたったひとりの中絶胎児の細胞から作られたものだったということだ。それを可能にした有能な研究者の存在もさることながら、「命の重み」と言う言葉の軽さを心に刻んで人間が安全に暮らすということ、私たちの自由な行動と平安をもたらす学問や技術の進歩ということを見つめていかなければと思う。

ここではヘイフリックと言う一人の生物学者を中心にこのワクチンを生み出した歴史を「レース」という言葉を使って書かれている。研究の成果は誰のものなのか―今でも古びない問いかけはますます大きな課題となっているが、私たちが研究の陰にこの本に書かれた多くの事実と様々な立場の人々がいたことを忘れないでいなくてはいけない。或る時は利害で、あるときは学者の良心で行動した研究者たちのこと、また救われた人の立場、救うことができなかった人の生きた歩みは、このコロナ19の世界を生きる私たちにとって大きな教訓にもなるのではないかとも思う。

原書レビュー

科学者、政治家、医者、子を持つ親、そして医学研究の世界に興味を持つすべての人におすすめ。
科学がどのように進展するかを知り、科学のなしうるベストと我々にとってのベストに政治がいかに介入でき、実際に介入しているかを知るために、是非とも読んでもらいたい一冊。 ──『ハフィントン・ポスト』

* * *

これは病との闘い──終わりのない闘い──の物語である。そして、計り知れない価値を持つワクチンの、開発の物語である。
しかし、物語が進み、科学の進展を語る中で、メレディス・ワッドマンはさらに多くのことを明かす。
全ての闘いがそうであるように、そこには英雄的行為やリスクを取る決断、粘り強さ、不利な闘いに挑む人々が存在する。そして全ての闘いがそうであるように、物語には政治、愚鈍さ、官僚主義、金銭をめぐる駆け引きが存在する。
読みやすく、単純化しすぎることなく、それでいて純粋に科学の部分ですら明快にわからせてくれる。つまり、私はこの本が大好きだ。──『グレートインフルエンザ』著者、ジョン・M・バリー

* * *

心奪われるストーリー……レベッカ・スクルートによる『不死細胞ヒーラ:ヘンリエッタ・ラック スの永遠なる人生』を思い起こさせる……ワッドマンは情報と題材から冷静に距離を置き、スクルートに劣らぬ 魅力的な語り口で読者を導いていく。──『ネイチャー』

* * *

科学界の内部闘争、ぶつかり合う人々、揺らぐ倫理観、そして科学界の退屈な辺境から一躍、巨万の富が渦巻く 表舞台へと躍り出る細胞生物学……わくわくが止まらない。──『ウォール・ストリート・ジャーナル』

著者プロフィール

メレディス・ワッドマン(Meredith Wadman)

ワシントンDCで生命科学・医学研究に関する政治問題を20年にわたって取材。『サイエンス』誌のスタッフ。これまで『ネイチャー』誌、『フォーチュン』誌、『ニューヨーク・タイムズ』誌、『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌などに書いてきた。スタンフォード大学とコロンビア大学を卒業、ブリティッシュ・コロンビア大学で医学を学び、ローズ奨学生としてオックスフォード大学の医学部を卒業した。

目次

  • 目次
  • プロローグ
  • 第1部 細胞
    • 第1章:はじまり
      第2章:発見
      第3章:ウィスター再生
      第4章:染色体異常と中絶
      第5章:死にゆく細胞と定説
      第6章:スウェーデンからやってきた細胞
      第7章:ポリオワクチンの〝お客様〟
      第8章:人体実験
  • 第2部 風疹
    • 第9章:姿を見せた厄災
      第10章:小さな命を襲う災い
      第11章:狂犬病
      第12章:孤児と市井の人々
      第13章:馴染みの悪魔
      第14章:政治と圧力
      第15章:大脱走
      第16章:熊の穴
      第17章:細胞をめぐる闘い
      第18章:DBSの敗北
      第19章:躍進
  • 第3部 WI−38細胞をめぐる攻防
    • 第20章:奪われた命とスカイラブ
      第21章:細胞Inc.
      第22章:苦難の道
      第23章:ワクチン開発競争
      第24章:生物学Inc.
      第25章:ヘイフリック限界の解明
      第26章:ブート・キャンプの病原体とバチカンへの嘆願
      第27章:巣立ちのとき
  • エピローグ:その後
  • 謝辞
  • 解説/岩田健太郎

詳細情報

定価 本体 2,400円+税
判型 四六判上製判
ページ数 541ページ
ISBN 978-4-7581-1213-0

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